[INSIGHT] 匿名性を貫くフットウェアブランド SUICOKEの哲学
20周年を迎えた謎多きシューメーカーに迫る
霧に包まれたブランド SUICOKE(スイコック)とは?

サンダルを代表アイテムとして、今や日本を代表するフットウェアブランドのひとつとなった日本のフットウェアブランドSUICOKE(スイコック)が2026年春に設立20周年を迎え、「ブランドの全方位アップデート」を発表した。
セレクトショップでも多数の別注が展開され、日本のデザイナーズ、海外モードからストリートブランドとも数多くコラボレーションを行うなど、ファッション界隈からも高い信頼を得ているが、その実像は不思議と霧に包まれている。今回highvision magazineでは、今回の“20周年アップデート”を入口に、設立以降現在に至るまで、ほぼ表に出てこないことで知られるデザインチームに取材を敢行。アノニマスを貫くこのブランドの実像に迫った。
Text : 武井幸久 Yukihisa Takei(HIGHVISION)
「作りたいものだけを作る」から始まった

今から20年前の2006年にSUICOKEは誕生しているが、その始動は少し曖昧なものだった。アパレルやシューズ関連の仕事をしている仲間が集まり、「自分たちで作りたいものを作る」という目的でシューズを中心としたプロダクトを作り始めたのがSUICOKEの始まり。それなりの手応えを感じながら2年ほど継続するも、メンバー各自の本業との仕事量のバランスもあって、1年ほどは活動を休止した。その後、コアメンバーが独立結集する形で、本格的にリブートしたという経緯がある。
現在ではサンダルで知られる同ブランドだが、サンダルを作り始めたのは2012年頃から。それまではシューズ中心でありつつも、時にはロシアに発注してオリジナルの「マトリョーシカ」を作ったり、オリジナルファブリックで三角形の「タイクッション」を作るなど、まさに「自分たちが作りたいものだけを作る」を地で行く、奔放な活動をしていたという。(※マトリョーシカは「それなりに売れた」そうだ)
その「自分たちが作りたいもの」という目線の置きどころは、「今の世の中にないもの」を作ること。その目は徐々に「ファッションとしても履ける、機能的なサンダルの不在」に向けられ、シューズを長年手がけていたメンバーの経験をもとに、オリジナルのサンダルの開発に乗り出した。
世界で初めてビブラム社とフットベットを共同開発

SUICOKEのメンバーは、「当時、アウトドアブランドのサンダルを街履きする人も増えていたが、機能的には良いものの、デザイン的にはいわゆる“アウトドア”で、それこそモードな服装でも履ける、それでいて機能的なサンダルが世の中になかった」と振り返る。
彼らはデザイン面では装飾を抑えながらも機能的なサンダルを目指して、オリジナルのフットベットの開発や、ベルト部分と足の甲の擦れを軽減する補強パットも設計。それによって、当時はまだ珍しかった「機能発想のファッションサンダル」を世に送り出した。この“ありそうでなかった”プロダクトにはセレクトショップの目利きたちが反応し、SUICOKEのサンダルはファッションの世界から注目を集めることになる。

さらに2014年、SUICOKEは“ビブラムソール”として広く知られるイタリアのビブラム社(Vibram)とフットベットを共同開発する。ビブラムは靴底のアウトソールの会社として確固たる世界的地位を築いているが、その当時までフットベットの開発は行なっていなかったという。ビブラムのアウトソールとしての高い性能を熟知していたSUICOKEチームは、「同じゴムを扱っているなら、サンダル用のフットベットも作れるはず」と考えて直接オファーし、共同でオリジナルのフットベットの開発を進めた。
この“コロンブスの卵”的発想は実を結び、SUICOKEは世界で初めてビブラム社のフットベットを搭載したサンダルのブランドとなり、「インディペンデントなフットウェアブランド」から、「日本発のシューズメーカー」としてのイメージも確立して行った。
SUICOKE コラボレーションの流儀

SUICOKEと言えば、そのコラボレーションの数、そして多様さも特筆だ。試しにウェブで「スイコック コラボレーション」と検索してみて欲しい。検索上位にはセレクトショップの別注として、インラインモデルをアレンジしたものが出てくるが、さらに見てみると、国内外さまざまなブランドと実施しているコラボシューズやサンダルが過去のものを含めて出てくるはずだ。そして、そのデザインの多彩さに改めて驚くだろう。
コラボレーションにはさまざまな形態があるが、「どちらかにプロダクトとしてのベースがあり、それをもう一方の組み先がアレンジする」ケースが一般的だ。もちろんSUICOKEにはフットウェアブランド、そしてサンダルを主軸アイテムとしている背景があるので、そのケースにも当てはまるのだが、実際リリースされるものは、インラインのアレンジを超えた、斬新なオリジナルデザインとして放たれているものも少なくない。

ここでSUICOKE が過去にコラボレーションしたブランドの一部を見てみよう(※当メディア調べ)。
日本発のブランドでは、NEEDLES(ニードルズ)、ENGINEERED GARMENTS(エンジニアド ガーメンツ)、SOUTH2 WEST8(サウスツーウエストエイト)、nanamica(ナナミカ)、nonnative(ノンネイティブ)、NEIGHBORHOOD(ネイバーフッド)、F/CE.®(エフシーイー)、F.C.R.B.(エフシーアールビー)、is-ness(イズネス)、POTR(ピーオーティーアール)、Mastermind JAPAN(マスターマインドジャパン)、WACKO MARIA(ワコマリア)、A BATHING APE®(ア ベイシング エイプ)、blackmeans(ブラックミーンズ)といったストリート文脈のブランドから、TOGA(トーガ)、BED j.w FORD(ベッドフォード)、beautiful people(ビューティフルピープル)、UNUSED(アンユーズド)、doublet(ダブレット)、TAKAHIROMIYASHITATheSoloist.(タカヒロミヤシタザソロイスト)、MIDORIKAWA(ミドリカワ)、FUMITO GANRYU(フミトガンリュウ)などのデザイナーズ系のブランドまで幅広い。いずれも確固たるポジションがあり、誰もが一目置く、ある意味でクセのあるブランド揃いだ。
一方海外のブランドでは、LANVIN(ランバン)、Moncler(モンクレール)、Missoni(ミッソーニ)などのグローバルなハイブランドを筆頭に、TOM WOOD(トム・ウッド)、The Elder Statesman(ジ・エルダーステイツマン)、Nigel Caboun(ナイジェル・ケーボン)、Carhartt WIP(カーハートWIP)、DENHAM(デンハム)、A.P.C.(アーペーセー)、STUSSY(ステューシー)、thisisneverthat®(ディスイズネバーザット)、そして中にはシューズブランドであるDr.Martins(ドクターマーチン)ともコラボレーションを行なった実績もある。
もちろんセレクトショップではBEAMS(ビームス)、UNITED ARROWS(ユナイテッドアローズ)系列を筆頭に、Nepenthes(ネペンテス)、海外のMR.PORTER(ミスターポーター)やPilgrim Surf+Supply(ピルグリムサーフアンドサプライ)などとも継続的に別注を展開。SUICOKE側でも、「コラボレーションや別注を合わせた数は、もう自分たちでも把握しきれない」と言うほどの数をこなしているが、どれを見てもそれぞれのデザイナーのイメージやデザインを見事に具現化させていることに気づく。
↑doubletとのコラボレーション
↑ MIDORIKAWAとのコラボレーション

↑ TOGA とのコラボレーション

↑ TAKAHIROMIYASHITATheSoloist. とのコラボレーション
doubletやMIDORIKAWA、TOGAなど、中にはなかなかの“無理難題”とも言えそうなデザインのものもあるが、SUICOKEは、「できる限りデザイナーのご希望に添える形で協業したい」という考えを元に、一緒に取り組んできたという。もちろんそのデザイナーたちのアイデアの中には、構造や機能性において無理が生じるものもあるため、そこは知識や経験に基づいてSUICOKEチームがカバーする形でプロダクト化している。
これは推察だが、これほどまでにSUICOKEがデザイナーたちから指名される理由は、その機能面や生産背景だけでなく、SUICOKEのデザインチームが元々ファッションに近いところで活動していたことから、センス面で感覚を共有できるという安心感も大きそうだ。だからこそギリギリを攻めたデザインでも、ファッションとシューズとしてのバランスが成立する。
20周年のアップデートポイント

今回の20周年の「全方位アップデート」は、実は「特に周年に合わせたものではなく、前々から考えていたことを実行するタイミングとして重なっただけ」とSUICOKEチームは話す。それは、特に海外からのオファーに応える形でいつの間にか増えていたカラーレンジの見直し、そしてこれまでユーザーやコラボ先からクレームやアドバイスを受けたわけではないものの、プロダクトを継続する中で作り手として気になっていた箇所を、全体のイメージは大きく変えずに大胆に修正した。
変えたのは、SUICOKEのベースモデルであるサンダル3型(“DEPA-2”、“KISEE”、“MOTO”)のクオリティ面。フットベットの厚みを若干厚くし、フットベット自体をこれまでよりも若干柔らかく変更し、アウトソール、ストラップテープやストラップバッドに至るまでを改良。肌あたりの良さや履き心地のよさ、長時間着用時の快適性などを向上させ、クオリティアップしたという。またブランドネームも「S」をデザイン化したミニマルなものに変更している。
- SUICOKE “MOTO”
- SUICOKE “KISSE”
- SUICOKE “DEPA-2”
フットウェアは一般的に洋服よりも工業製品に近く、シビアにクオリティを求められるプロダクトだ。履き心地はもちろんのこと、特に耐久性の面ではユーザーの目も厳しい。また、シューズの「型」が必要となるため、服に比べて新規の参入障壁も高いのが特徴だ。SUICOKEではソールからの開発を行う場合、作り手たち自らが着用して試す時間も含め、「約1年半から2年」もの時間をかけるという。自分たちが納得したものを時間をかけて開発した結果、履き心地や耐久性に関しての信頼性は高まり、それがセレクトショップやファッションブランドとの継続的な取り組みにも繋がっている。


この春、新たにリリースした“POWN”という名称のスリッポンとスライド、レースシューズもそのような開発背景を元に生まれたプロダクト。このシューズにおいては、SUICOKEが新たに開発したソールORBIT Sole、独自の内蔵クッションSUICOKE SLEEPGOD EVA、クッション性を備えた SUICOKE SOFTSTEPを組み合わせた3層構造になっている。高いクッション性と履き心地を実現するための構造だが、3種類の異なる素材を組み合わせるというのは、単なる足し算に終わらず、掛け算の要素も出てくるため、その開発を想像するだけでも少し気が遠くなる。

このシューズは昔の原始的なモカシンのデザインから着想を得ているそうだが、元ネタとなるシューズは現代生活には全くフィットしないため、彼らの哲学でもある「ありそうでなかった、自分たちが欲しいもの」の発想を元に生み出された。ふかふかとした独特の履き心地、アッパーには防水透湿性を備えたSUICOKE SHERPAのライニングを採用するなど、随所で機能性が求められる現代のフットウェアの条件を見事にクリアしている。
ちなみにSUICOKEでは、今回のアップデートに際し、20万人近いフォロワーのいるインスタグラムのアカウントの過去の投稿を全消去するほど、今回のアップデートに高い熱量で望んでいる。これはこれまで積み上げてきたことを振り返らずに、さらに前進をするという意気込みの表れでもありそうだ。
「自分たちが作りたいものを作る」という、SUICOKEがブランド立ち上げから掲げているコンセプトはさらに磨きがかかり、これまで以上に高いクオリティのアイテムを生み出していくことになるのだろう。今後もSUICOKEからのリリースには注目が必要だ。
[CONTACT]
SUICOKE
https://suicoke.com
https://www.instagram.com/suicoke_official/
[編集後記]
この10年ほどの間に、何度SUICOKEに関するNEWS記事を書いただろう。様々なブランドとのコラボレーションにおいて、都度クリエイティビティの高いサンダルを紹介することが増えてきた一方、「なぜ多くのブランドからSUICOKEが選ばれるのか」、「どのように作っているのか」。そんな疑問も浮かんでいた。今回の取材は、そうした長年の個人的疑問を解消するべく申し入れたものだったが、作り手たちのクオリティに対する追求の姿勢をより強く感じさせるものになった。(武井)
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Editorial
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